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執筆者の写真Toshiya Kakuchi

ものを大切にしましょう

今回、INDUSTRIAでパンツを1型作りました。



「ONE SIDE GURKHA TROUSERS」という名の通り、クラシックなトラウザーズをベースにお馴染みのグルカパンツのニュアンスを私の解釈でふりかけた商品です。



広義な意味で、デザインそのものはしていません。



伝統的なトラウザーズやグルカパンツの持つ雰囲気がどこにあるかの追求と、それを抜き取りモダナイズさせること、そして少しのディティール加減の調整によって望む条件を満たすものへと変化させました。



では、端的にどのような点にフォーカスしたか。



1:シルエットとバランス



とにかくこれが一番大切。

基本的なトラウザーズの美しいシルエットを出すために、細すぎないストレートテーパード型をベースにしたフォルム作りをしています。

正面から見たときの腰回りの立体感と裾に向かう線の流れ方は一番シビアに評価される点なので、この表現は当たり前に120点が取れるよう調整しました。

サイドから見たときに美しく見えるかは、ウエストからヒップ、そしてワタリにかけての流線です。

クラシックなトラウザーズはここがよくできていますが、ドレスのスタイルが基本ではないカジュアルこなしな我々にすれば少々大げさであり、多少アレンジすべき点もあります。

ポイントとなるのはコンパクトなヒップのフォルム作りと、ヒップのトップが下ではなく上に向かうように見える(誇張して言うならサンバを踊るブラジル人のケツ)美しいヒップラインを表現すること。

そして、腰から裾まで一直線に降りるシワ一つ発生させないパターンワークは色んなものと比べて頂ければその良さが伝わるはずです。



2:完璧に体型をカバーする設計と、コーディネート性



次に大切にしたことは、誰にとっても”合う”ように作ること。

まずその点で一番要になるウエストについては、デザイン上はベルトループを付けないノーベルト仕様にしながら、片側に設けたアジャスターによってウエストサイズの最大10cmの調整を可能にしています。

この10cmという設定は、実際に絞って頂いた時にもシルエットに干渉しないギリギリのところに着地させているのはもちろんですが、ハイウエスト、ローウエストのどちらにも対応が効く便利な機能としても意味を成します。

もう一つ重要なところですが、コーディネートにおいて腰のバランスがとても重要というのは意外にもあまり語られていませんが、その点にこだわっています。

スーツがなぜ美しく見えるかをご説明すると合点がいきますが、その一つの理由として「ジャケットの裾とパンツの腰回りのバランスが完璧に合っているから」ということがあります。

簡単に言うと、トップスに対してボトムの腰回りが適度に吸い付くことで、上下のつながりが綺麗に見えるという理屈ですが、逆の例えをするならオーバーサイズのトップスにスキニーパンツが合わせにくい、チビTにワイドパンツが合わせにくいように、ちょうどいい関係性を築けるとコーディネートが美しく見えます。

その点においても、アジャスター機能は数cmのバランス調整をする役割を果たしますので、丈の長い短いはもちろん、幅の広い洋服や細い服を合わせて頂くと、お手持ちのパンツと比較して解決できる確率が高いはずです。

これは余談ですが、ノーベルトの仕様にすることでトップスをインさせたときのミニマルな雰囲気の演出と、ベルトが不要という一つコーディネートの問題を省く役割も担います。



3:履きやすいか



これも大変重要です。

日常的にパンツを選ぶ際、最初に考えることは「今日はどこで何をするか」ではないでしょうか。

動くのか、座るのか、仕事なのか、遊びに行くのか、楽したいのか、緊張させたいのか、など、カッコよく着こなす以前の前提として、シーンに対してどうカッコよくするのかが問われます。

今回のパンツは出で立ちは完全にスラックスですが、素材をポリエステル、ウエストのアジャスター機能はイージーパンツの紐のような役割も担います。

このポリエステルも大変こだわって選んだものですが、表面感とタッチはトロピカルウールのように小綺麗にしつつ、実際の強度とコシの強さはそれ以上のものを選んでいます。

また、トロピカルウール見えしつつもそれとの最大の違いがある点は、夏服以外とコーディネートした時のマッチングの良さです。

要は年間において相当な期間を着ることができるものになっているわけですが、いつでも履けるという気温対応も昨今の温暖化気候においては大変重要です。

それと、単なるトラウザーズではなくグルカパンツのエッセンスを求めた理由はその動きやすさで、フォーマルシーンに着る服と兵隊が着る服の決定的な違いを理解して反映させています。

また、これはパターンと素材の両方から成り立つ部分ですが、シワが入りにくく入っても戻る、膝も出ない作りになっています(写真のパンツは数時間座った直後の後ろ姿です)。

素材について、今回のポリエステルはトロピカルウールのような小綺麗な表情をもちつつ、ウール以上にしなやかなドレープ感を持っているところも特徴です。

ここは履いてご覧頂くほか説明のしようがありませんが、大変美しい揺れ感と生地のたわみがあり、なお且つ軽くて涼しくて…というウソみたいないい条件を揃えています。

わざわざトロピカルウールを選ばなかった理由としては、そのようなことが挙げられます。



4:お直しをしなくても良い



語弊のないように説明しなければなりませんが、かなりの確率で買ったそのままの状態で履けるように作っています。

基本的に、パンツの裾直しをしないというのは数mmにこだわるベシックスのポリシーに反する考え方ですが、どうすればそれをクリアできるかを考え抜きました。

今回のパンツは、股下の丈を「10分丈」のイメージで作っています。9分丈でもなければカットする必要がある10分以上でもありません。

それを可能にするのはまずは膨大なデータで、これまで数々のパンツを販売してきた中で得た長さのデータと、そのデータの傾向分析(スラックスとデニムとチノパンで傾向が違う)です。

そして、大体サイズに対しての股下の範囲が見えたところで、その数cmの範囲をどう吸収するかを股上の設計で解決させています。

どういうことかと言うと、写真をご覧の通り私の身長167cmの体型でお直しなしで履いていますが、実はこの状態は結構なハイウエストで履いています(その姿も見た目が悪くならないよう調整しています)。

本来なら多少切って履いた方が良い長さではありますが、切らなくてもこれくらいの見た目にできるようになっている、というのがミソです。

それでも100%絶対なんてことはあり得ないのですが、確率としてはカットせず履けるようにしつつ、逆に短い場合にだけ股下を出すことができるようにしています。

この考え方もあまり一般的ではありませんが、パンツの丈詰めはできる限りやりたくないので、INDUSTRIAのパンツは「詰めるより出す」ようにしています。

ブーツカットやテーパードパンツが最たる例ですが、形を決定付ける1番の部分が裾です。

裾が広がっているか、狭まっているかがそのシルエットを決めるポイントですが、世の中のほぼ99%のパンツがそこをいじる構造になっています。

逆に、丈が短く足りないお客様に関しては、さらに広がろうが狭まろうが体に対してその方が望ましい変化を遂げるわけですので、こっちの考え方の方が理にかなっていると考えています。

また、通販の問題をクリアする意味や、お直し代のような余計なコストを省くことも大変重要ではなかろうかと考えました。



他にもたくさんのレシピがありますが、あまりダラダラと話しても自慢のようで好きではない&マニアックすぎるので今回のブログもこのあたりで一旦やめましょう。



最後に1通目のブログに遡りますが、作り手の目線で日常着を徹底的にこだわるということは結局のところ大変難しく、手数が無限にある筈がないわけですが、どうして私たちはリリース時期やシーズンをここまで執拗にこだわってしまうのでしょうか。



そのような思考は良いものに対して視野を狭めるばかりか、不要なものまで増やしてしまう理由にもなっています。



「ものを大切にしましょう」と子供の頃に教わった言葉は、買った人がその物を大切にする以前にまず我々売り手側が習い改めて理解すべき言葉なのだと思います。



そして、お客様の手に渡ったものが最後に私の代わりにお客様の納得度を高め、この話を受け入れようと思って頂くためにもINDUSTRIAでは今後も全ての精度を高めてリリースすることをここに約束いたします。



大切に作り上げたINDUSTRIAのプロダクトが、多くの皆様に末長くご愛用頂けると大変嬉しいです。






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