ネガティブにとらえているわけではないが、今多くの消費者にとって最も重要なことの一つは価格だろうと思っている。
誰だって高い物は買いたくないし、かといって安ければ何でもいいわけでもなくなっているのだが、そもそも「高い」か「安い」かの基準は人それぞれだし、ベンツのAクラスを買い得に感じる方もいれば、100円均一で「これは高い」と言い張る人もしばしば見受けるから値付けの難しさは奥が深い。
そんな中でも、比較的共通認識として高価で当然と思われているものが「革」だ。
少し具体的に言えば、「金額が高ければ高いほど良いものである」というイメージだろうか。
諸々の説明を省き大雑把に言えば、その通りである。
大量生産化されにくいものの典型アイテムだが、そのカラクリは至ってシンプルで生き物の皮をそのまま使うからというのは理由として大きい。
どういうことかと言えば、表情の個体差があり、一枚の皮の大きさも生き物の大きさにより異なる。
生きていた動物である以上、もちろん怪我もするわけだから自然に傷も発生している。
そして、生き物が変わればさばき方も変わるというのだから、機械にビューっと流してハイ出来上がりとはならないことが容易に想像できるだろう。
従って、職人たる方々が一つ一つの個体差・条件を見極め、製品に活かすか殺すかを判断しながら作っていくようなプロセスから、革製品はオンリーワンに成り得ることが多くなる。
さらに、牛や馬や羊であったものを人の形に作り変えるライダースジャケットなどは、整形な生地で作った洋服とは違い、扱いにくく時間もかかるわけだから当然それらも価格に反映してくるということだ。
これまで何度となく検討して、一度も手をつけてこなかったライダースジャケットをついに今シーズンは取り扱うことにした。
すでに店頭に並んだ商品をご覧のお客様もおられるが、CINOHでオーダーした馬革のライダースは、税抜き20万円という決して皆にとって買いやすい価格ではないが、これ以上バランスのとれた20万円のライダースが他に見当たらない気がしたので買い付けの際は悩まなかった。
牛・馬・羊など、一般的に多い革がそれぞれ異なる特徴を持っていることは言うまでもないが、同じ牛でも硬質な革も軟質な革もあるのでここでは説明を省くこととし、馬について少し触れてみたい。
今回このライダースを買い付けた大きな理由は馬革であったから、ということでもあるが、筋肉質で脂肪の少ない馬はもともと革そのものがピンと張ったような”緊張感”ある表情を持っている。
少し脱線すると、この緊張感というワードは今後書くブログにおいても頻出するであろう言葉で、先々の傾向として外せない要素と考えている。
話は戻ってもっと簡単な言い方をすれば、生きた状態を見ても牛よりも羊よりも、馬が一番ルックスが格好良いので製品も自ずとイケメン(イケ女もあるか…)になりやすい。
靴などに使われることが多いコードバンのような馬の中でも最も鍛え上がった臀部付近から採る革は、硬く強さがあり、その上表情も豊かであることが特徴として話され、首回りなどホースフロントと呼ばれる革は比較的柔軟性も持っていることから伸縮性が必要なアイテムに使われやすいのだが、総じて馬の革は牛などと比べて、もし同じ厚みであったとすれば強度的にも勝っているというデータが出ているくらい扱いやすさが特徴ともなっている。
ライダースとはもはや名ばかりで、完全にシティーウェア化している状態のアイテムに求められる条件は、転倒しても破れない程の硬さや、ライディングスタイルに沿ったパターンや各ディティールの取り付け方などではないことはそろそろ気づいてきた頃だが、そういう意味でもCINOHのライダースは街で着る服でありつつ、伝統も良く理解した上で縛られていないモダニズムが窺える。
人それぞれの好みはあるが、シティーウェアとしてのライダースにはレスラーのような強さよりも、シンプルに美しく見えることの方が欲しいというのが個人的な感覚だ。
そして、緊張感が一つの気分である現在、柔らかすぎる革もなんだかしっくりこない。
革自体に色気や味わいのような醸し出す雰囲気が備わり、形が綺麗なことはライダースにとって最重要とも言える中で、前述したようなことを踏まえるとクオリティーにこだわる弊店としては20万円くらいからが自信を持って薦められるプライスレンジと確信しているから、私の中ではむしろこの商品のコストパフォーマンスを皆さまにお伝えしたい気持ちでいる。
様々なブランドからリリースされているアイテムなので、これを機にじっくりとよく見て比べて頂きたい。
納得できる仕上がりであるものは、必ずむやみに安くないことを気付いて頂けるはずだし、いつか妥当な価格帯が見えてくる中で、このCINOHのライダースがどういう評価になるか、ゆっくり見ていきたいと思う。
素材そのものがトレンドとも言われる昨今、より強い素材をと考えていった結果「革」には繊維製品以上の力強さを感じ、その先を見据える方々にお薦めしたいと思っている。