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執筆者の写真Toshiya Kakuchi

憧れと青に込めた想い / vol.2

- 受け入れてしまう違和感



それは、デザイナーの阿部さんが時々口にされる言葉だ。



古参のファンならこの言葉の意味をよく理解されているとは思うが、一般的にはまだまだkolorの表現を単なる奇抜として誤解をされているケースが多いように感じている。



同じく、「テーマはありません」という阿部さんのシーズン毎の気分を定義させない、宙に浮かせた状態を好むkolorにおいて、ブランドのアレコレを言語化することは極めてナンセンスであるが、あくまで私個人が思うkolorの恒久的な魅力と底力に関して以下に綴っていくことにする。





違和感またはズレ、というのがこのブランドの根幹的なクリエイティブであると私は理解しているが、それはプロダクトの表面的な印象という意味ではなく中身のことである。



AW20のコレクションでは、直近のkolorの代名詞的デザインであるドッキングやレイヤードというテクニックが多用され、アンニュイなモデルの背面には「渋谷スクランブル交差点」や「競馬レース」「アポロ11号月面着陸」だと思われるような多様なシーンとのマッチングがあり、最後にはスパイダーマンでもない偽物がスカイダイビングをしている写真といった本物か嘘かまでもがカオスとなった、そんな意味さえ凌駕するような世界観を演出されていた。





阿部さんのコレクションを長く見ている立場からすると、その表現方法は今に始まったことではなく、ppcmという前身のブランドにおいてもブランドの服を着たモデルたちがひたすら蕎麦を食べている姿をヴィジュアルにされていたことがあり、そうかと思えばkolorの初期コレクションではドイツ人写真家のオーギュスト・サンダーのような「真実」にフォーカスした作品をインスピレーション源にしていたようなシーズンもあった。



つまり、kolorというブランドはファッション業界においてのトレンドや先駆性という狭義なものにカテゴライズされることや、古い慣習さえ嫌っているようにも見えるわけだが、阿部さんのセンスを表現するにあたっての手段としてのブランド運営の中には、「グレーのように見えるブルー」や「ツイードのように見えるポリエステル」「単純なデザインに複雑な動きをつける」というような、物理的な特徴が幾重にもレイヤーされ、それらは全てデザイナー阿部さんの脳裏にある美意識と違和感の狭間にある独自の表現として具現化されている。





しかし、それらのテクニック自体にはさして意味がなく、故に「テーマなどない」という言葉に片付けられ続けているのだろう。



「わかりにくい」と言われてしまえばそれでおしまいなのかもしれないが、少なくとも私はファッションを仕事にする者として、その奥行きに着眼しないことなどできるはずもなく、至って素直にそんな服だからこそ激しく心を動かされる。



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- 憧れと青に込めた想い



ベシックスをオープンさせる際に、様々なことを考えていた。



商品はもちろんその他の一部を語ると内外装などにも強いこだわりがあり、外装には所謂服屋っぽさを感じさせない、言ってしまえば中に入ることを一瞬躊躇するような外観に仕上げている。



お客様に意地悪ができるほどの偉そうな身分でもなければ、中に入ってきて欲しくないなんて気持ちが微塵もないことは先に断っておく(正直、かなり自分の首を締めた部分でもある)。





しかし、なぜそのようなことをしたかと言うと、ここは服屋ではあるが服を売る場所である以上に服を介してお客様一人一人のスタイルを作るお手伝いをする場所であるという気持ちがあったからで、つまるところ一人のお客様に掛ける時間も熱量も相当なコストを見込んでいたし、お客様側にもある程度覚悟をして入ってきてもらう必要があった。



そして、中に一歩入ると上へと続く階段がある当店だが、店内に辿り着くまでの数メートルに敷いた青いカーペットには、今からもう15年くらい前に初めて阿部さんと直接お話をさせて頂いたときの衝撃的な発想に影響され、引用させて頂いたことをようやくここで自白させて頂く。



それは、前職のときにあるコンクリート構造のお店でkolorのポップアップストアを実施するときのことだったが、その当時盛んに行われていたSHOP in SHOPというのは、多くがお店の中に壁と装飾を施し、ブランドのロゴをカッティングシートなどで貼り付けるようなデコレーション的手法であった中で、阿部さんは展開するスペースに真っ青のカーペットを敷くことを望まれた。



我々スタッフはその発想に驚き当然理由をお聞かせ頂いたわけだが、阿部さんの回答は



「コンクリートの床からカーペットの踏み心地に変わったとき、おそらくその違いをはっきりと気付く方はいないと思いますが、体と頭の裏側にあるスイッチが切り変わると思います。」



ということだった。



天才とは阿部さんのような人だということを思い知らされたと同時に、当時自分がkolorに抱いていた表面的な印象を尽くひっくり返されたような思いだった。





ベシックスの入り口に忍ばせた青いカーペットにはそんなkolorへの強い憧れがあったわけだが、それに加えて、ご来店頂いたことがある方なら全員がお気付きだと思うがイギリスのフレグランスブランドJO MALONEの香りという嗅覚へのアプローチ、そして最後に一歩一歩階段を登っていく中で感じる静寂という、3段階の設計にしたのはあの時の学びに他ならない。



人は見た目によらないことも、見た目によることも両方が存在すると思うが、前述のようなたった一例を取ってみてもkolorのプロダクトに内包されたインテリジェンスなエッセンスを取り込むことは、ベシックスが展開する他のどのブランドとも違った確かな価値があると確信している。



ちなみに大事な話が末筆になってしまうが、ベシックスが展開する「kolor / BEACON」というレーベルは、阿部さんがkolorでラインナップするコレクション性を重んじた商品とは別の、阿部さんが着たいものやkolorとしてのコアを今の視点で表現する、というコンセプトで運営されている。



つまり、kolorとしての濃度が高くよりkolorのベーシックが詰まったレーベルである、ということからこちらのビーコンがベシックスに相応しいと選ばせて頂いたという経緯だ。



kolorというブランドをスタートした想いと、この素晴らしい世界観がお客様に伝わればこの上なく嬉しく感じる。










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